●別冊旅日記 2003 〜はじめてのアメリカ一人旅〜
[Neil Young]

今回の旅を決定付けたのはNeil Youngだった。この世に生まれたからには、アメリカでNeil Youngを観なくては。
しかもCrazy Horse!これを逃したら観られないかも。映画「Year of the Crazy Horse」を観て以来、このバンドでNeil Youngを観るのが夢のひとつだった。
Neil Youngが私をこの旅に導いてくれたんだ。

US2003 唯一日本からチケットが取れていたライブなので安心だけど、ホールじゃなくてChastain Parkという野外のステージだったので、行き帰りがモノスゴク心配。早めにホテルを出て目的地へ向かう。Chastain Park行きのバスを待ってると、4、50代のおじさん達にどこへ行くのか聞かれた。
ニールヤングを観に行くんだと言ったら、自分達もそうだ、チケットはあるのか?と聞かれた。日本で取ったと言ったら驚かれた。っていうか、私も驚いたよ。おっちゃん達も観に行くのかってね。新宿コマ劇場に北島三郎観に行くのと似てるのか?(注:バカにしてるのではありません。)

バスは出発地点から終点まで。30分以上かかったかなぁ。山をどんどん上って進んで行く。これは終バスに何とか乗らなくては帰れない…。人間独りでいるとしっかりするもんだね。公園に着いて私がした事は、まずチケットの交換。次に帰りのバス乗り場の確認、そして終バスの時間は念を入れてスタッフの人に確認した。

さぁ いよいよライブ!!公園に続々と観客の車が入ってくる。そっか、みんな車で来るのか。そうだよね こんな山の中だもんね。
可笑しかったのは、Neil Youngの色んな年代のツアーTシャツを着てるおじさんが結構いて、それぞれが相手を意識していた事。自分がいかにファンかって暗黙で競い合ってるみたいだった。

Chastain Parkは日比谷の野音みたいな感じ。入ってまずツアーTシャツ買いまくり、私もあのおっちゃん達と同じ。ビールでも飲みたいとこだけど、ぐるっと見回すと、何千人もいる中で東洋人私だけ。
すごいなぁ。ここで戦争したら間違いなく私死ぬなとか被害妄想しつつ、戒めのためにアルコール我慢。
ここで7時開演の前に思いがけない事が起こった。あーっという間に雨雲がChastain Parkをおおって、物凄い雷と大粒の雨!みんな雨を逃れて屋根のある場所へ殺到。すかさずポンチョ売り出現。安物ぴらぴらのビニールってだけなのに5$。
「この東洋人の娘が来たからだ!」って誰かが言ったら、私間違いなく死ぬなとか更に妄想。

雨と雷はひどくなるばかり。あーそういえば、ここは山だったんだ…
 ♪むすめさん よっく聞〜けよっ 山男にゃ惚〜れ〜るなよ〜
  山で吹かれりゃよ〜 若後家さんだよ〜♪
ってすごい歌詞だな…。あぁ…私の幸運もここまでか。思えばエリオットにも会えたし、Cold Playも観れた。充分ではある。しかし中止になったらチケット払い戻しできるのかしら?払い戻しって何て言えばいいんだ?観客が帰らないので、私も帰らない事にして雷雨がやむように祈った。
やっと小雨になったあたりで、オープニングアクトのルシンダ・ウィリアムス登場!
わーい!中止は中止ぃー!ルシンダはアメリカでは名の知れたシンガーソングライター。若手のバンドとともに素晴らしい演奏だった。演奏中に雷がビシビシ落ちていた。

9時過ぎ、出てきました!Neil Young &the Crazy Horse!! 席は前の方だったけど、肉眼で表情が見てとれる程近くもない。両脇のスクリーンに映って初めて実感が湧く。
わぁー本物だぁ…。映画で観たおっちゃん達だぁ。観客大声援。ギターの音が響いて、歌が始まってまたまた実感。Neil Youngだ…。ふと周りを見ると、カップル同志で話してる人もいれば、盛り上がってる人もいれば、落ち着いて聞いてる人もいる。この国の人にはNeil Youngを観る事が当り前なんだ。
うらやましい。

今回はnew album『Greendale』のツアーで、本編はストーリーじたてのものだった。(2003年Neil Young来日時もこのツアーでした。)途中ソロの弾き語りもあって、いつもレコードで聴いていたあのギターの音とあの声が!アメリカ、アトランタでホケーっと独りNeil Youngの世界にどっぷり浸かったのでした。

さて、本編終了した時点で10時50分。最終バスが11時7分。バス停はちょっと先にある。じりじりとせまってくる時間。もうどうにでもなれー!って気持ちもあるけど、ここではちとヤバい。自制してるのにアンコール1曲目は…♪Hey Hey my my Rock'n Roll is never die〜♪
ぎゃあぁぁ!!大好きなギターのフレーズ!!しかも2曲目は「Like a harricane」
もう後ろ髪を引かれまくりながら、園内をぐるーっと回って、何度も振り返りながらバス停へ急いだ。タッタッタと早歩き、遠くで歓声と演奏が響く。
ありがとう…。何て幸せなんだろう…。
生きててほんとに良かった。

US2003 見上げると、さっきまでの雷雨が嘘のように月が輝いていて、一筋の飛行機雲がスーっと筆でひとはけしたように夜空に映えていた。バス停には車で来れなかった人が数人いて、みんな満足そうな顔で喋ってる。
中年の夫婦に即話し掛けられて、日本からチケットを取って一人で来た事、明日帰る事など話した。
ミネアポリスから観に来たと意気込んでたおじさんからも信じられないと言われた。
でもね、ライブ観て思ったんだけど、これは観に行くべきものだよ。旅費はかかっても、それをポーンと超える程の力があるよ。なんて強く思いながら話をした。
夫婦の人に夜中の地下鉄のことや治安の事を聞いた。幸い途中まで一緒だったので心強かった。地下鉄はキレイで利用者も多かったので平気だった。
「良い旅を!」とお別れしてホームから地上に上がった途端、現実。真っ暗な道に人っこ一人いなけりゃ車も通らない。
うーん 駅の人にタクシーが通る道を教えてもらってひたすら待つ。時々普通車がす〜っと減速してこっちに向かってきたりして、ちょっと恐かった。やっとタクシーをつかまえてホテルへ。私の心配をよそに運転手の黒人のお兄ちゃんは気楽に喋っていた。私は子供の頃から帰宅中、視界に家が見えても油断しないタイプだった。家に入って鍵をかけるまで安心しない。ふいに襲われるんじゃないかとか思ってしまうのだ。だからよく先生が「遠足は家に帰るまでが遠足です。」って言ってた時、「当たり前じゃん」なんて心の中で思ってた。なので、私がホッと一息ついたのは、ホテルの部屋に入って鍵をかけた瞬間だった。

明日は帰国。余韻に浸る間もなく、かばんに荷物を詰めた。


| 帰国… |

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